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神戸地方裁判所 昭和52年(行ウ)17号 判決 1978年7月07日

神戸市北区有野町有野二一三三番地

原告

樫本定雄

同市兵庫区水木通二丁目一番四号

被告

兵庫税務署長 倉松常雄

右指定代理人検事

平井義丸

指定代理人

塩津英雄

岩城章雅

石室健次

平木正行

竹見富夫

吉岡和彦

梶原周逸

主文

原告の本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、

「一、被告が昭和五一年三月一〇日付でなした昭和四七年度分所得税の総所得金額四、〇〇〇万八一五一円、税額二、〇五九万四、八〇〇円とする賦課決定および重加算税賦課決定の全部を取消す。

二、大阪国税局長が、昭和五一年九月四日付でなした別紙目録記載の不動産に対する差押処分を取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は、神戸市北区山田町原野字数の奥山一番二〇、土地「、二〇一平方メートル、右同所一番二一土地二、四〇五平方メートルを兵庫県不動産株式会社に金六、三八二万〇五七五円で売却したが、共有であったので共有者訴外三俣よしゑに金五四〇万円、同浜田一枝に金八一〇万円、同樫本イサヲに金四、五〇〇万円、同原告に金五三二万〇、五七五円を分配したが、宅地造成費金二、八五〇万円を訴外大栄建設株式会社に支払ったので差引金二、三一七万九、四二五円の赤字となった。

二、原告は訴外宮本登より金三一万五、〇〇〇円、同光久光三郎より金一八三万円、同岩崎竹雄より金七九万円、同三友建設株式会社より金四九八万七、六八〇円の計金七九二万二、六八〇円の収入を得たが、経費として測量費、砂防費負担金として計金二八〇万円を要した。

三、右収入と支出を計算すると、収支は、マイナス金一、八〇五万六、七四五円である。

四、被告は、昭和五一年三月一〇日、総所得金額四、〇〇〇万八、一五一円、税額二、〇五九万四、八〇〇円の賦課決定および重加算税七二〇万七、九〇〇円の賦課決定をした。

五、原告は、これに対し、昭和五一年四月二二日、被告に異議申立をしたが、昭和五二年六月二二日、被告がこれを棄却した異議決定書謄本を、原告は、右同年同月二五日、受領した。

六、原告は、別紙目録記載の不動産の所有者である。

七、大阪国税局長は、被告からの申出により、原告に対する右滞納税金徴収のため、昭和五一年九月四日、原告の別紙目録記載の不動産を差押えた。

八、しかしながら、大阪国税局長の右差押処分は、何等、原告において、滞納なきに拘らず差押えたものであるから違法である。

と述べた。

被告は、本案前の抗弁として、主文同旨の判決を求め、その理由として、

一、課税処分の取消しを求める部分について、

原告が、本訴において、取消しを求める原告の昭和四七年分所得税について、被告がなした昭和五一年三月一〇日付決定処分に対し、原告は、昭和五一年四月二二日、異議申立をし、被告は、昭和五二年六月二二日、右申立を棄却し、昭和五二年六月二五日、原告に異議決定書謄本を送達したが、原告は、国税不服審判所長に対する審査請求をしていない。

本件のような取消訴訟は、行政事件訴訟法八条一項ただし書、国税通則法一一五条により、原則として、審査請求についての裁決を経ていない本件決定処分の取消しを求める訴は、不適法である。

二、差押処分の解除を求める部分について、

被告が、原告の不動産を差押えた事実はないから、訴の対象を欠く不適法なものである。と述べた。

原告は被告の本案前の抗弁に対して、次のとおり述べた。

一、原告は、本件について、国税不服審判所長に対して審査請求を現在に至るまでしていないことを認める。

二、しかしながら、原告は過去において本件とは別の課税処分について審査請求をしたことがあるが、審査が非常に遅れたうえ、審査請求が棄却されたので、原告は訴えを提起したところ、一審では右審査の関係で原告が敗訴となったが、控訴審では原告の言い分が認められたことがあった。右のような経緯があったので、本件においては原告はあえて審査請求をしないで本件訴訟を提起したものである。

三、つぎに被告が原告の不動産を差押をしたものでないことは認めるが、被告の申出により、大阪国税局長が徴収を引継ぎ差押えたものであるから、被告に対して右差押の解除を求めるものである。

なお、差押された不動産は、営業上の商品であるから大阪国税局長が差押すべきものではない。

理由

よって、先づ、原告の昭和四七年度の所得額に対する被告の課税処分の取消を求める原告の本件訴の提起が適法であるか否かについて判断するに、本件のような取消訴訟は、行政事件訴訟法八条一項但書、国税通則法一一五条により、原則として、審査請求についての裁決を経た後でなければ訴を提起することができないと解すべきところ、原告が本訴において取消を求める被告がなした前記、昭和五一年三月一〇日付決定に対しては、原告が審査の請求をしていないことは当事者間に争いのないところ、この点につき、原告が過去における本件とは別の課税処分取消訴訟における審査前置の事情を述べ、これをもって本件訴訟における審査前置をしなかった理由としているものの如くであるが、別件訴訟において審査前置の点がどのように判断されたとしても、かかる事情は事件を異にする本件訴訟に影響を及ぼさないことは他言を要せず明らかなところであり、原告のかかる主張は主張自体失当というべきである。そうすると、原告が審査の決定を経なかった点につき国税通則法一一五条一項但書に規定する事由によるものであるとの主張も立証もない本件訴は不適法といわねばならない。

次に差押処分の解除を求める部分について判断するに、原告の主張する差押処分は訴外大阪国税局長がなしたものであり、被告がなしたものでないことは原告の自陳するところである。そうすると、凡そ、処分の取消の訴えは、処分をした行政庁を被告として提起しなければならない(行政事件訴訟法一一条一項前段参照)のに、右差押処分をしていない被告を相手方とするこの訴は、本件徴収事務を訴外大阪国税局長に引継いだとしても不適法といわねばならない。

よって、原告の本件訴えはいずれも不適法として却下することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村捷三 裁判官 住田金夫 裁判官 池田辰夫)

別紙

目録

神戸市北区山田町原野字数の奥山三番三九

山 林    九四平方メートル

右同所二番一の七

山 林    四九平方メートル

右同所一番一四

山 林   六四七平方メートル

右同所一番九

山 林    九五平方メートル

神戸市北区山田町小部字砂原六番一

原 野   一五二平方メートル

右同所七番一

原 野    八五平方メートル

右同所九番一

原 野   一一五平方メートル

神戸市北区緑町四丁目二番八

宅 地    七八・八九平方メートル

右同所一番九

宅 地    三六・一三平方メートル

右同所一番一二

宅 地    三六・二二平方メートル

右同所二番三

宅 地    一七・七六平方メートル

神戸市北区山田町原野字数の奥山一番二四

雑種地    九八平方メートル

神戸市北区緑町四丁目一番八

宅 地    二八平方メートル

右同所二番一四

宅 地    四四・九一平方メートル

以上

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